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ロミオとシンデレラ 歌:小林幸子doriko feat.初音ミク

大きな箱より小さな箱に

熱い。
低音の艶、ビブラート、リズム感。これぞロックボーカリストの本懐。


思えば遠くへ来たもんだ。
dorikoも私も。そしてきっと小林幸子も。
dorikoは9年のキャリアを詰め込んだベスト盤をリリースした。


ボーカロイド創成期、私は大学生になった。
その頃よく聴いていたボカロPのひとりがdorikoであり、ニコニコ動画だけでなく、アルバム『unformed』を購入して聴いていた。

それから時はたち、ボーカロイドはひとつのピークを迎え、そしてピークは過ぎていった。

その間、私は就職し、自分で初音ミク曲をニコニコ動画に投稿したりもした。
しかし、いつの間にか私もあまりボーカロイドにアンテナを張らなくなった。

いまの若者の興味は再び「邦楽ロック」に傾いていると感じる今日このごろである。
再び、と言ったのは私が中学生、高校生のころもそうだったからだ。

小林幸子や、一部の歌手がボーカロイドとの幸福な邂逅を果たしていたことは知識として知っていた。
またJINによるカゲロウプロジェクトが大きな成果をあげていたことも知っていた。

しかし正直、dorikoのアーティストとしての寿命がここまで長いとは思わなかった。


楽曲ではなく、ボーカロイドの話が多いのは許して欲しい。
とはいえ、dorikoについて語るとき私がボーカロイドについて語ってしまうことはある意味で本質的なことだ。
なぜなら、だれよりもボカロPたちこそが、ボーカロイド = 初音ミクというフィクションの威を借りることで王国を盛り上げることを望んでいたからだ。


話を楽曲に戻そう。
『unformed』の頃、私は「通勤快速」「ぶちぬけ!2009!(2008)」「みっくりすます」などのキュートなポップスが好きだった。
dorikoの作編曲センスはベタだけどメリハリがある。それが魅力だと思っている。
「夕日坂」「歌に形はないけれど」などももちろん良い曲だが、ことバラードとなると、最大の強みであるメリハリが発揮されづらくなってしまうと私は思っている。

そして、次のことは強調しておきたい。
メリハリは、他の創成期のボーカロイド楽曲とボカロPたちにおいても、Jポップとの鮮烈な差異化を可能とさせる武器だった。いわゆるボカロマジックだったと私は思っている。


前段が長くなった。
『ロミオとシンデレラ』もメリハリの楽曲だ。

マイナーキーでのアップテンポなロック、シンセのリード、ブリッジミュート、ブレイク、制服を着た少女の物語。
個別のカードはベタなのに、キレのある編曲を実現している。気取ったことをしないパンチのあるポップス。これこそがdorikoの魅力である。
その核は偏にdorikoのセンスと言い切れる。注目したいのはだれがそれを引き出したか、だ。


立役者の一人は、初音ミクだ。
初音ミクという楽器は、人の世界では許されざるメリハリを持つ。音の瞬発力と切断力だ。
機械だからできる機械的なメリハリ。
もちろんそれはデメリットと裏腹だ。しかし、ベタなポップスを歌わせればグッとパンチのある棘を添えることができた。


もう一人の立役者は、ボーカロイドの世界それ自体である。

ボカロが許したのは、等身大なのだと思う。
それは、使い古されたマジックワードだ。
しかし音楽の創り手と聴き手が、必ずしも等身大で楽しんでいるかといえば疑問だ。なぜなら、音楽には序列が歴然と存在しているからである。
高度な音楽ができることは優位であり、高度な音楽を理解できることもまた優位だった。
音楽を愛する人たちは皆、等身を大きくすることに多大な熱意を持っていた。
そこから自由であるためには個人の強い自立心が必要だった。

他方、創成期のボーカロイドには、所詮遊びだから、という諦観があった。
等身を大きく見せる必要がない場所。それがボーカロイドの世界だ。
それはとても知的な諦観である。
大人の諦観に基づいた遊びの場において、私たちは初めて等身大になれる。
結果的にボカロPたちはベタなアプローチができた。肝の座った思い切りの良さで。
それがメリハリのある編曲に効いていた。


"大きな箱より 小さな箱に幸せはあるらしい"(ロミオとシンデレラ)


これこそが小林幸子をも惹きつけた、ボカロマジックの本質だと思っている。




以上、キレイにまとめたところで終わらせたいが最後にひとつ。

公にはdorikoの代名詞はバラードとなっているようだ。
どうやら私はそれに異を唱える立場になってしまっている。
ローテンポな楽曲に寄り添い、メリハリを有効活用できない結果、ベタな素材だけが残る。
しかし、それこそがボーカロイドのピークを支えたユーザーたちのニーズであったのなら、私は構わないと思っている。

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