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最近の若手バンドについての与太話

「最近の若手には骨のあるやるがいないんです」
「あんたは春になるといつもそう言うな。新入りってのはな、朝顔みたいなものなんだよ」
「アサガオ?」
「ああ。アサガオだ。芽が出るまではとにかく水をやることだけ考えていれば良い。支柱をたててこっちが望む方向にツルを巻いてもらうのはそのあとの話だ」
「なるほど。おやじさんの言うことはやはり含蓄が違う」
「お代はまけないよ」
「わかってますって。おれも疲れて飲みに来たサラリーマンにサラッと人生を説けるオトナになってみたいってだけです。ところで、じつのところ今回はそれとは話が違います」
「違う話?」
「うん。新入社員じゃなくて、バンドです」
「バンド?そういやあんたの仕事は編集者だったな。酒を飲んでるところしか見たことがなかった」
「それはこの店にきてるからでしょ。うん。音楽雑誌のね」
「それでバンドがどうしたって?」
「もう10年この仕事をやってきました。バンド音楽にハマって新譜をチェックするようになってからは15年。それが最近すっかり新譜を追う気力が無くなってきているんです。仕事じゃなかったらおれはもうロックバンドを聴いてすらいないんじゃないかと思う」
「忙しすぎるんじゃねえのか。オンナつくってドライブでもしてみろ。オレの頃はみんなユーミンをカセットテープに入れていたもんだ」
「忙しいのもある。耳が肥えてしまっているのもある。しかし、一番の原因は面白いバンドがでてこないことにあると自分では思っているんです。少なくともおれはそう考えている。もちろんいまも絶え間なく新人バンドのデビューはある。でも、それがことごとく面白くない」
「面白くないってのはお前の都合だ。どこがどう面白くないのか聞かせてもらおうじゃないか」
「そうです。それは確かにおれの都合です。おれはこう思っています。いまのバンドは節操がない」
「節操?」
「うん。要するに、ロックバンドが貧乏になることを怖がっている」
「それがどう節操に繋がるんだ?むしろお行儀が良くて小じんまりとしたやつが最近は多いじゃないか」
「まず第一に、プロモーションへの抵抗が全くない。第二に、アルバムをコンスタントにつくりすぎる。第三にそう、お行儀が良い」
「なるほど、ロックバンドらしくないってわけだ」
「ロックバンドらしくない在り方が既存のロックバンドへのオルタナティブならまだ良いんです。だけどそうじゃない。例えばジョンレノンが最新のグッズが完成する度に自前のECサイトをリツイートしたらどう思います?お茶の間にも届けたいんだといってミュージックステーションに出たらどう思います?デビューからの節目だからって十年ごとに武道館公演をやったら?」
「おもしろいだろうが、かっこよくはないわな」
「うん。ビジネスを理解するロッカーや、現実を見て販促できるロッカーなんて、そもそも本質的に面白くない。それを一種のオルタナティブに見せたところで、長期的には音楽の面白さがすり減るだけなんだと思っています」
「アルバムはコンスタントに出してくれたほうが良いんじゃないのか?」
「みながデビットボウイやプリンスならね。それが果てしない創作意欲なのか、狭い世界でのルーティンワークなのかって話です。本当に自分たちが世に出さなければいけないアルバムでない限り下手に作品をつくらないほうが良いとおれは思う。少なくともロックバンドなら」
「ピストルズのように一発かまして解散しろ、ってか」
「奇をてらえってわけじゃないんです。不良ぶってろってわけじゃないんです。ただピストルズもジョンレノンも町田町蔵も、もしかしたら尾崎豊なんかも、その物分りの悪い姿勢がパフォーマティブなものでしか無かったわけはないと思っています。音で裏切らないために、彼らの中では有機的な接続があった。いまのバンドにはその双方がない」
「おれは景気の悪さも影響してると思うぜ。ミュージシャンも人の子だ。背に腹はかえられねえ」
「おっしゃる通り。この国の景気の停滞は甚だしい。雇用は安定せず、賃金も上昇しない。エアポケットのような儲け話も、契約社会と情報社会で淘汰されつつある」
「音楽業界はもっと悲惨だ。栄光が輝かしいだけにね」
「そう。だから、ロックミュージシャンであっても、サラリーマンのように手堅く、細かい仕事で細かい実績を刻んでいく。フォロワーを増やしていく。一発当たることなんて原理的にもうないのだから。それはよくわかる」
「突破口は?」
「ないです」
「お前にできることは」
「それはあります。それが仕事だとは思っていますから。しかし、音楽雑誌は明らかに回帰している。キャリアの長いアーティストたちに。リスナーにおいても同様です。若者がつくった音楽を若者が聴いて、それがユースカルチャーとして神聖化される図式が成立しなくなっている」
「有望な若手か」
「そうです」
「toldってバンド知ってるか?」
「told?」
「最近のバンドだ」
「知らないです。70'sまでが専門領域のおやじさんから最近のバンドの名前が出るってのは珍しいですね。それがどうかしたんですか」
「この界隈はバンドマン多くてな」
「そうでしょうね、中央線沿線は。私もそんな雰囲気に憧れて田舎からやってきたたちですよ」
「常連がそのバンドの熱心なファンなんだ」
「アマチュアですか?」
「半分はそんなものだ。おれも一枚アルバムもらって聴いてみたんだが少しおもしろいとおもった。まず、やろうとしていることが少ないなと感じた。これは良い意味で」
「やろうとしていること?」
「ああ。キャリアは10年弱あるらしいが、アルバムはここ2、3年に二枚出しただけだ。第一に音数が少なくバンドの音しか入っていない」
「でも、そんなアーティストはたくさんいるのでは?」
「いる。でも違う。すべての曲で定位がすごくはっきりしているんだ、toldというバンドは」
「スピーカーの左右に音を振る定位?」
「そう、特に二本のギター。これがどの曲でも、お揃いの衣装を着た強面のボディーガードのように左右にきっちり控えて鳴っていて、それがとても形式的なんだ」
「ボーカルは?」
「ボーカルはギタリストがとってる。ただ、前身のバンドではピンのボーカルがいたらしいんだな。それがそのまま抜けたのがいまのtoldになっている。だからいい意味で真ん中が空いている音作りになっているのかもしれない」
「それは聴いてみたいな。バンド名もシンプルでセンスが良いですね」
「曲名もそうなんだ。おれが気に入っている曲は『Fall』という」
「面白いですね。最近はSEO対策したブログ記事のタイトルみたいなバンド名や曲名が多いですから」
「気負いがない、っていうのかな。それが、時として貧相になりがちなくっきりした定位をサラッとやってのけるのだと思う」
「メロディは?」
「控えめだな。キャッチーだけど、歌に背中を預けたポップソングではない」
「オルタナ?」
「うん、その類いだな。Fenderだっけか、低音も高音も鋭利な音だ。でも下手な展開や、賢しらぶった歌いまわしとか、気味の悪いポエムとか、そういった鼻につくような背伸びがない」
「気負いがないんですね」
「気負いがないんだな」
「で、それがどうかしたんですか、toldが」
「いや、あんたが骨のある若手がいないっていうからさ」
「ああ、それで」
「骨はあると思うぜ。ただ、養殖して服着せて儲けることはできねえかもしれねえな」
「売れないですか?」
「そんなタイプじゃない」
「それでも構わないですよ。気負いすぎて縮こまった80点のバンドばかりですから」
「その意味じゃ、toldは70点だな。でも全くテスト勉強はしていない」
「それは必要に応じてこっちがさせるんです。勉強なんていらないと思っているバンドにしかシーンをつくるポテンシャルはありません」
「威勢がよくなってきたな」
「良いバンドの口コミですから。職業病かもしれません」
「酒のおかげだろ。まあとにかく聴いてみることだな」

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