キッズとメロコアの様式美
メロコアと言われる音楽が持つポップ感ってわりと様式美的なものがあって、どんなにメロディックであろうと刺さらない人には全く刺さらなかったりする。かく言う私も、メロコアを聴くときは、「あーメロコアのメロコア感気持ち良いー」的なチャネルが活性化されている状態に無意識に合わせているもので、言うなればそれは一種の敷居だったりする。
『ANOTHER STARTING LINE』がスゴく良かったのは、メロコアの様式美に確信犯的に倣っていながら、それに楽曲が全く依存していなかったことだ。
もしかしたらこの言い方は正しくないかもしれない。
事実、『ANOTHER STARTING LINE』の武器は間違いなくメロコアのハーモニーであり、メロコアのコーラスであり、メロコアの歪みであり、メロコアのブリッジミュートであり、メロコアのビートだ。その意味で、その構成要素は何から何までおなじみのもので出来ている。
しかし次のような明白な差異もある。
Aメロ、Bメロ、サビ、Aメロ、Bメロ、サビ、間奏、Bメロ、サビ。
『ANOTHER STARTING LINE』は構成が明確だ。
そして、メロディがロングトーンだ。
私が初めて、Hi-STANDARDを知ったのは『My First Kiss』だった。
御存知の通りこの代表曲はカバー曲だ。彼らの本来の持ち味は『Stay Gold』に代表される、もっともっと性急でタイトな譜割り、ストイックな曲構成、ビューティーになりすぎないハッピーなメロディにある。
『ANOTHER STARTING LINE』で思い出した非メロコア的な普遍性は『My First Kiss』だった。
メンバーが口に出しているかは分からないが、90年代のパンクシーンを通過した人々が共通して使う言葉がある。
「キッズ」だ。90'パンクの人たちは、イノセントでピースフルなアティチュードとして、キッズという言葉を大切にしている。
『ANOTHER STARTING LINE』が持ち合わせて"いない"のは「キッズ」なのだと思う。逆説的に次のことが言える。キッズの音楽のアイデンティティとなっているのは上記三つの要素、性急でタイトな譜割り、ストイックな曲構成、ビューティーになりすぎないハッピーなメロディなのだ。
大人になったHi-STANDARDのなにが評価できるって、それは「キッズ」に固執しなかったことだ。パンクは年齢に宿る魔法ではない。当たり前のことだが、誰よりもHi-STANDARDがそれを実践したことは、私たちにとって堪らなく心強い。
( Written Nov 28, 2016 )
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