街が変わる、自己を位置づける
バンドマンのソロを聴くのは好きだ。
その人が、バンドとソロ、公と私をどのように分断するのか。
その境目をどの地点に置くか。音なのか、歌詞なのか。仕事と趣味なのか。
一番好きなジャンルと、二番目に好きなジャンルなのか。
それまでのバンド作品では、プライベートな音楽を鳴らしていたのか。
そうではなかったのか。
ソロ作品をリリースするとたくさんのことが見えてくる。
『Good New Times』は、一聴して良い曲だ。
ロックのうるさい感じそのものが苦手な人に聴いてほしい。
穏やかで、ちょっとオシャレで、耳に馴染む。休日にカフェにでも出かけたくなる。
特に音楽好きでない人が音楽に求める素材でつくられた、生活に寄り添ってくれる音楽だ。
気持ちよく張る声や軽快なリズムに、健康にソロ作品に取り組もうとしている姿勢がうかがえる。
アジカンという足場を持った大人の余裕が小気味良い。
そういうときに出てくる音楽は好きだ。
聴き手にも余裕を与えてくれる。
軽快なアコギのリズムは、アジカンのイメージとは大きくことなる。
意外とベースがゴリゴリいっている他に、気づくことがひとつあるだろう。
言葉だ。
むき出しの言葉がたくさん詰め込まれている。
この軽やかな曲によくこれだけの言葉を乗せた。
いや、ここはちょっと疑ってかかりたい。
この曲は、沢山の言葉をむき出しにすることを目的としてつくられているのではないか。
後藤正文を語るときに、政治的であろうとする近年のキャラクターを無視することはできないだろう。
指摘しておくべきなのは、その時代性だ。
かつて、ロックミュージシャンが政治的であることは、普通のことであった。
Bob DylanもSex PistolsもBeatlesも何かしらの政治的事件性を内包していた。
簡単な話で、それは時代が持つ一体感だったのだ。
小さな波が大きな波になるのに丁度良い情報の伝達速度が、20世紀のある時代にだけ存在していた。
それがロック誕生から全盛への歴史と、キレイに連動していた。
その意味では、ロックはメディアの音楽だと言える。
話を戻そう。
今のロックミュージシャンは政治的でないのが普通である。
なぜなら、もはや波は大きくならず、音楽と政治には何のつながりも無いからである。
それは悲しいことではない。音楽も政治も繋がってしまっていたあの時代こそがイレギュラーだったからだ。
それでは後藤正文は、こんな時代に、まだ音楽と政治の結合力を信じている脳天気な人間なのか。
その類の勘違いはとても多いが、もちろん、それは違う。
後藤正文が政治的であることと、かつてのロックミュージシャンが政治的であったことは、意味が違う。
『Good New Times』で執拗に「街」のモチーフが登場する。
"僕らの魂を街頭に飛び出して書きつけてまわるんだぜ"
"見慣れたビルの最上階から悲しみが滝のようだね"
"少女が泣いていた 街は灰色のままさ
若者は嘆いていた 街は灰色のままだ"
"花を植えよう そこら中に
種を蒔こうか 街中に
いつかきっと目に見えるように変わるから"
街は「悲しみが滝のよう」な場所であり「灰色」だった。
それを「魂を書きつけ」「花を植え」「種を蒔く」ことで変える。
街が変わる。それは随分と特殊なコンセプトではないか。都市開発じゃないんだから。
仮説から入ろう。
後藤正文の政治とは、世界を変えるための政治ではなく、政治を変えるための政治ではなく、自己を位置づけるための政治である。
『Good New Times』では、街の中に自己を位置づけるという作業が行われている。
僕ら、は実家に位置づけられているところからはじまる。
"実家だけがシェルター"
そして「魂を書きつけ」「花を植え」「種を蒔く」ことで自己を街に位置づけていく。
これらの作業はマーキング行為そのものだ。
マーキングとは居場所へのモチベーションである。
実家で「ジャック・ケルアック」を読んで感動していることと、その感動をポケットに街に出ること。
その違いが後藤正文の政治である。だから彼の活動は言葉を変えてメディアを変えて私たちを行動へと啓蒙する。
それは、デモに行け、といった簡単な意味ではない。
行動によって、街に出ることによって、個人の中で街は具体的なイメージをなす。
そうして初めて、人は自己を位置づけられるようになる。
これは特別な話ではない。だれだって行きていく上で自己の位置づけを必要とし、それは自己の外があって初めて行われる。
その、あたり前だけど困難な試みを、政治的なことだと捉えること。そのために街が私たちには必要であること。それが後藤正文の立場だ。街の中に自己が位置づけられることは、自己にとってだけでなく街にとっても意味がある。物理的にも精神的にも、自己がアドインされることにより、街が変わるからだ。音楽は政治を変えないけど、街は政治を変えるかもしれない。音楽は街を変えないけど、音楽は自己を変える。
( Written Dec 25, 2016 )
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